製作責任者のノーマン・フェルトンは、当初シリーズをカラーで撮影したいと考えていました。
近い将来テレビ番組がカラーに移行することを見越していたし、カラー移行後のシンジケーションでの再放送ではモノクロよりカラーの方がセールス・バリューがあると思われたからでした。
しかし、予算の都合により第１シーズンはモノクロで撮影され、第１回だけ７５分のカラー長編パイロットで開始されたのです。

パイロットの試写を見たNBCネットワークの幹部たちは、ソロの上司を演じたウィル・コルーヴァを別の俳優に交替させるようフェルトンに命じました。
フェルトンはこれに同意し、と言うのもフェルトンとロルフは既にコルーヴァをもっと知名度の高いベテラン俳優にオファーしようと考えていたからでした。
主役のR・ヴォーンもD・マッカラムも当時はまだ無名に近い存在だったので、ネーム・バリューのある俳優の起用が必要に思われていたのです。
また、NBCはロシア人エージェントを演じるマッカラムを降ろすよう要求しましたが、既に製作は開始されており、マッカラムが最初の１３本のうち７本に登場するという契約も結ばれていました。
このことはマッカラムにとって幸いでした。
（ほどなくしてマッカラム人気が沸騰し、彼を番組から降板させることが不可能になりましたが・・・）
フェルトンは、コルーヴァの後釜として映画のベテラン俳優であり、TVの世界ではシリーズ「陽気な幽霊」で有名だったレオ・G・キャロルに出演依頼することにしました。
イギリス出身のフェルトンはキャロルの大ファンだったこともあります。

コルーヴァ降板の他にも問題がありました。
アンクルに対抗する犯罪組織の名前は、プロデューサーのサム・ロルフは“スラッシュ”(THURUSH)という組織を考え出したのですが、NBCはスラッシュの使用に反対しました。
と言うのもボンド映画に登場する犯罪組織“スメルシュ”(SMERUSH)に酷似していたためです。
NBCとサム・ロルフは、THURUSHに代わる組織名のアイディア　特に鳥や動物に関連するものを多く考え、オリジナルのパイロット版では犯罪組織の名前が“ワスプ ”（蜂）となっていました。
結局フェルトンとロルフの押しが効いて、“スラッシュ”が正式採用になったのです。

そして最大の問題、番組の正式タイトル決定が残っていました。
当初スタッフは 、"Solo - Adventures in Thrilling Cities"、"Solo"、"Mr.Solo"、"Solo's World"、"The Affair of Solo" と言う題名を考えていましたが、ボンド映画の製作会社からの訴訟によりソロの名前をタイトルとして使用することは不可能になっていました。
NBCは番組タイトルを "The Man From U.N.C.L.E." 「アンクルから来た男」としてはどうかと提案し、それが正式題名となりました。

更に問題は起こります。
国連(United Nations)から番組に使用される秘密組織 U.N.C.L.E. の UN が国連と関連があるように誤解を受けるので使用を見合わせるようMGMの法律部門に連絡して来たのです。
サム・ロルフは U.N.C.L.E. が United Network Command for Law and Enforcement の略称であるとし、国連とは関係ないことを示します。
更にフェルトンは番組のエンディング・クレジットに「United Network Command for Law and Enforcementの協力でこのフィルムは製作されました」という架空の組織の協力を示すタグを挿入しました。
こうして U.N.C.L.E. が United Nations と関連がないことを示して、“アンクル”の使用を継続することに成功したのです。

キャスティングが完了しパイロットの撮影が始まったのは１９６３年１１月２０日で、撮影終了は１２月９日でした。
撮影の大部分はサンタ・アリーナ・フリーウエイに面する石鹸などを製造する工場レヴァー・ブラザース・カンパニーで行われ、この工場は番組のクライマックスに登場するバルカン化学産業として使用されました。
撮影は工場が稼動していない夜間に行われ、撮影に先立ち製作補佐のジョージ・レアは工場の下見に赴き、工場の足場、蒸気ボイラー、パイプなどが秘密基地の設定に絶好であったが、夜間撮影のために内部の照度が不足するのではという問題があリました。
レアは夜間撮影に適切なフィルムを実験し、最終的にイーストマン・コダックのフィルムを使用することで巧くいったのです。

撮影は順調に進むと思われたのですが、レヴァー・ブラザースでの撮影２日目にアメリカ全市民を震撼させる事件が発生しました。
ケネディ大統領が暗殺されたのです。
スタッフ、キャストはこの大ニュースにショックを受け、特にケネディの信奉者だったロバート・ヴォーンにとっては大きな出来事で、クルーは撮影を中断し、１日おいて撮影を再開しました。
撮影日が 1日減った分、予定のスケジュールを消化するために残りの撮影はすみやかに行われ、パイロットのための６９分のラフ・プリントは１９６３年１２月１６日に完成し、製作予算は約４５万ドルでした。

それが、この「The Vulcan Affair」なのです。